小野小町は平安時代の歌人である。
六歌仙(ろっかせん)と言って、その時代の歌詠みの名手6人をひとまとめにして指した呼称があり、小野小町はこの中の一人である。
古今和歌集といって、天皇自らが編纂を命じた和歌の傑作集に、小野小町の歌はかなりの首数が採録されている。
この時代から約150年後に書かれた枕草子のどっかに、風流人のたしなみとして古今和歌集は諳んじられないといけない、とか書いてあったような気がするが、古今集は当時としてはドラゴンボールぐらいの基礎教養だったらしい。
六歌仙の中の紅一点という事もあり、小野小町は際立った存在であった。当時のスーパースターであり、しかも美人だったがゆえに、色んな貴族から求愛されまくりでモテにモテまくったのであった。
「あたしが美しいばかりにモテてしまって困っちゃう」みたいな和歌もあるので実際に美人だったのであろう。
深草少将(ふかくさのしょうしょう)という公達がいた。
本名は不明である。
この人は恐らく架空の人物だろうと思うのだが、『深草』という言葉に殊更なヒネリが無いなら単純に田舎っぽというニュアンスで、『少将』というのも貴族として普通やや上ぐらいの中途半端さを表していて、名前の段階で既に、どう逆立ちしてもスーパーアイドル小野小町に釣り合うとは思えない、の演出である。
この深草少将が小野小町にガチ恋をしてしまったのである。
ガチ恋と言うのは、簡単に言うと、キモいアイドルオタがアイドルを好きすぎて全人生を差し出してしてしまう様態の事。
深草少将は、小町に何度も求婚する。
小町からはその度にああじゃこうじゃ言ってはぐらかす。
それもいい加減面倒になった小町はこう言う条件を出した。
「今日から100日、毎日欠かさずうちに通ったら、100日目に好きなだけセックスさせたるわ!」
これには大興奮した深草少将。
いつの時代の非モテも、女の心は自分の努力と引き換えに贖えると錯覚しているものであるなあ、と。
来る日も来る日も深草少将は小町のもとを訪い続けた。
99日通い続けて、そしてやっと、今日行けばセックス出来るという100日目。
不幸なるかな、深草少将は小町の家に行く道すがら心臓発作か何かで原因不明の死を遂げたのでありました。
その後、小野小町は全非モテの敵となり、空想上の世界では嫁に行き遅れてババアになって乞食になって野垂れ死んだ、とか描かれる訳であります。
更には、小町の餓死死体は獣に食われ、ウジ虫に食われ、微生物に分解され、土に還る過程を絵の題材にされるなど、非モテたちからはあらゆる妄想上の復讐を受ける。
現実世界において、キモオタは美女に全く勝てないので、想像の世界でボコボコにしてやろうという意図であるのか、そこらへんが非モテなんだろうな。
実際の小野小町は、天皇の更衣だったようでして、裕福で幸福で、更には歴史に名を刻む名誉も得て、けっこう楽しい生涯を送ったのだろうなあと思う次第。
現実じゃそら美人は強いよ。
をはり
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